いきなり前提の自分語りから入らせてもらうが、大学時代は週5くらいの頻度でスーパー銭湯の清掃のバイトをしていた。
サウナマットの交換や重いタオル類の持ち上げ、岩盤浴の清掃など結構な肉体労働で、賄いをドカ食いしていたにもかかわらず太ることはなかった。(なんと、通常料金の半額かつ従業員向けの特別な大盛り無料つきだ。それを2人前食っていた)
この頃は毎日1万歩くらいは散歩していたし、たらふく飯を食い、たらふく酒を飲んでいたが太ることはなかった。
オベ(肥満)の足音が聞こえてきたのは就職してからだった。就職してからも運動をする余裕はあり、事実していたのだがある時を転機にブクブクと肥え太るようになった。
オレは元々社会の講師になりたかった。歴史は好きだったし、得意だったからだ。
でもある時、理科の講師にジョブチェンジがしたくなった。理由は簡単で、単純に理科のほうがかっこいいと思ったからだ。
知識はあるのか❓否だ。
そのようなことは前例がないと言われた。
やるなら死ぬ気でやれと。
そこからは修行の日々だった。全く理科に縁のない人生を送ってきていたオレは小学生レベルから学び直しをしなければいけなかった。
仕事が終われば全ての時間を理科の勉強に捧げる。そのためどうしても運動をする時間は無くなってしまった。また、単純な暗記ではなく計算が要求されるものも多く、机にじっくりと向き合って勉強せざるを得なかったのも大きな理由だ。
特に高校物理はオレを苦しめ、机に縛りつけた。
だが楽しかった。真面目に勉強をしていなかった学生時代を取り返すようにして理科に打ち込み、知識が増えていくのはなかなかの喜びだった。
その上、一人暮らしをしていたオレは食事を、近所にあるデブラ屋とインドカレー屋でヘビロテすることになる。
運動不足と肥満食、このコンボはオレを危険な領域へと連れていった。
腹はブクブクと太り、顔面は醜くボヨボヨになった。
さて、オレのダイエットはここから始まる。
生物の勉強をしていた時、不意にオレの心を捉える概念に出会った。その名もケトーシスである。
炭水化物の摂取を極端に削ることにより、体内からエネルギーであるブドウ糖を不足させる。そうすることで体は脂肪を分解してケトン体を代用のエネルギーとして使い出す。こういうメカニズムで痩せるという論法である。
理科の教科書にも、黄色い食べ物、つまり炭水化物は体や脳のエネルギーとなる、と書かれているが、脂質には、脂肪として蓄えられたり、体を動かすエネルギーとなると書かれている。
これは素晴らしい‼️
すぐに行動に移すことにした。やると決めたら徹底的にがオレのポリシーである。
その日から食事から”黄色い食べ物”は姿を消した。
初期は野菜やタンパク質を摂取するためセブンイレブンでサラダチキンやサラダを買って食べていたのだが...
これがまぁ高い。セブンのサラダは大抵450円ほどする。また、サラダチキンの値段もバカにならない。炭水化物は安いが、タンパク質や野菜は高いのだ。
そのうち出費を痛いと考え、さらなる減量の加速を求めるオレは禁忌に手を染めることになる。
そう、桃娘生活である。
桃娘(タオニャン)という言葉を知っているだろうか。
この日からオレは、桃娘よろしく1日の中で魔剤と水しか口にしない生活を送るようになった。
↑
一日の中でも唯一の食事。ラディカル‼️
これがいかに危険であるかは想像が容易いだろう。しかし、いくら周りから危険だと言われても、やってみるまで満足することはできなかった...
桃娘生活で最も悪影響が出たのはメンタル面である。まず何よりも悪夢を見る機会が非常に増えた。寝つきも悪くなり、些細な不安に付き纏われるようになった。性欲もほぼ沸かなくなった。
そしてここからが恐ろしかった。桃娘生活を続けていると、本当に些細なことでイライラするようになった。
信号の変化が遅い、コンビニでの会計がモタモタしている、など、普段のオレでは全く気にも留めないようなことで激しくイライラするようになった。
口を開けば罵詈雑言や文句が飛びだしそうだ‼️🤬
ある時探していたものが見つからなかった時、最大級のイライラが襲ってきた。
「クソが!」
叫ぶと同時に、壁を殴っていた。
力のこもらない腕に残った痛みが悲しかった。
罪悪感と、なんでこんなことをしているんだという腹立たしさ。
まずい。確実に精神が侵蝕されている。
それでも桃娘生活をやめることはできなかった。ここでやめたら全てが元通りになるような気がしたのだ。
この頃ですでに体重は7kgも減っている。
再び元の生活に戻ったら、全てが水の泡になる気がしたのだ。
ある日、友達とあった。
なんと、彼にはオレの生活を伝えていないのにもかかわらず、こんなことを口にしたのだ。
「別人かと思うくらい覇気が無い。あと目が死んでる」
驚いた。事情を伝えていない他者に見抜かれるほど外に出ているのか⁉️
そしてその夜、飢え死にしそうなほどの苦しみに襲われた。視界はフラフラとし、動悸が止まらない。今すぐにでもすき家に駆け込んでチー牛を貪りたい気分だった。
だが耐えた。ネットでチー牛のカロリー表を見て、こんなのを食ったら終わりだと己を律することで欲望に打ち克った。
結局その日はほとんど寝ることはできなかった。
そして迎えたある日、オレは気晴らしにショッピングセンターまで散歩に出ていた。
その時、激しく慟哭する赤ちゃんの声が耳に飛び込んできた。
普段のオレなら、お〜泣いてる泣いてるw
くらいにしか思わないのだが、この時は違った
うるせぇな... 黙れよ...
そんな感情と共に舌打ちが漏れていたのだ。
この瞬間、かつてなく自分のことが怖くなった。
マズイ‼️確実に精神を乗っ取られている❗️
このままだとオレはバケモノになってしまう‼️
次の瞬間、オレはフードコートの松屋に駆け込んでいた。牛丼ドカ盛り。食わないと死ぬ‼️侵蝕される‼️
凄まじい勢いで🐮をかっくらってゆく。
変化はすぐに現れた。これまでの焦燥が嘘のように心が穏やかになってゆく。
賢者タイムに突入する前後の性欲かのように、急激に気分の変化が訪れたので失笑してしまいそうになった。
人間の体はあまりにも単純だ。
ストラテラを飲めば性欲がなくなるし、酒を飲めば酔っ払い上機嫌になる。コンサータを飲めば普段のオレが嘘のようにテキパキと動くことができる。そして飯をぬけばこうなり、食えば元に戻る。
臓器移植をされた人の性格が変化したり、自分とは異なる性のホルモンを注射した人の精神が不安定になるなどの話はネットでもよく聞く。
かつて訪れたニューハーフヘルスの嬢も同じようなことを語っていた。
人間には固有の性格なんてなく、脳内でのわずかな物質のバランスや機敏に左右されているに過ぎない。
今回の己の体を使った実験は、この仮説に対する確証をますます深める結果となった。
そして、23年生きてきてここまでの飢えは初めての経験だった。
オレは”飢餓”を知らない温室育ちのお坊ちゃんだったということだ。
そしてもう一つ、アンパンマンの偉大さを感じるようになった。
🦛「お腹が空いて力が出ない...」
🍞「ボクの顔をあげるよ」
アンパンマンのこのやりとりの真の意味が、ようやくわかった気がした。
アンパンマンというのは偉大なヒーローである。
こんなに飯を食って力が湧いてくると感じるのは初めての経験だったからだ。
ここまで三大欲求と心理面が直結していることを考えると、肉性と霊性の二元論は詭弁であると思えてくる。
せめてポジティブに考えるのなら、このようなメンタル面に現れる変化の数々を記録することで、常に最高のコンディションで生活できるようになるのでは無いか。
とにかく、桃娘生活は危険なのでもうやらないことを誓った。